トイレは我慢しちゃダメなんだから!
昼食をつくって運んでいくと、まだ横になったままですが、目を覚ましている実母の横顔が見えました。退院して間もないころは、ちゃんと呼吸しているか、それがすごく気になって思わず覗き込むような感じでした。
今は介護する側である私の気持ちも落ち着いて覚悟を決めて、取り組んでいます。寝てばっかりだったけど、状況も少しずつよくなってはいます。食事の量が若干増え、薬の量が減りました。これはとてもよいことだと思うのです。
弟夫婦はお勤めで、朝ご飯が終わったらすぐに出かけてしまいます。その後、話し相手もなく、ひとりで過ごす間は、脳を使っていない様子。どんどん脳が機能低下するのではないかと、ひやひやしています。
お昼ご飯をゆっくりと食べさせて、終わったら例のごとくホワイトボードを取り出して、筆談します。
これが結構楽しい様子で、自分の思いや考えを語ってくれます。
もうすぐ、実母の部屋にエアコンが付き、簡易トイレとベッドが来るはずになっているので、早く来ないかとしきりに待っている様子でした。実母の部屋から母屋のトイレまでは相当距離があり、手すりがないと、不安定なので、トイレに行く回数を減らしていたようです。
数日前から、食後にあまり水分を補給しないものですから、どうしたのかなとは思っていました。体力が低下して、自力歩行が困難な状態、行こうと思えばもちろん行けるのですが、1回行くのに、相当体力を消耗するようなのです。ハアハア息をはずませて、苦しそうにも見えます。
だから、なるべくトイレに行かなくても済むように、水分補給を控えて我慢していたんですね。そんなふうだから、ますます身体が機能してなくて、「ずっと遠くにいる人」だったんです。
私は、「この状況はいかん!」と思い、ボードを使ってやり取りし、トイレを我慢してはダメなんだということを説明しました。何度も書いては消し、消してはまた書く。最後には「分かった!」と言ってはくれるのですが、実行力はありません。
紙おむつもまだ必要ないと一点張りだった実母も、今回は諦めた様子。ホワイトボードに、こんなふうに書いてみました。
「体の中のいらないものを外に出さなきゃ、病気になります。おしっこと一緒に、いらないものを出しましょう。」
「今まで我慢してたの?辛かったのね」
「もう我慢しなくていいのよ、大丈夫よ。出したくなったら出せばいいの」
「恥ずかしいことじゃないのよ」
そう声をかけると、
「出たよ!」と。
やっと紙おむつが使えました。今まで紙おむつは恥ずかしいと思ってきたんですね。普通はもっと早期から使っている人も大勢いるというのに…。
体の調整力が落ちる
自分の体の調子を見極めるということができなくなっています。入院した3か月の間に失ったものが多過ぎて、いろいろなことができなくなっていることに憤慨し、少し気力をなくし気味です。
今までできていたのだから、できるはず。簡易トイレなんか必要ない。ひとりでトイレは行けるようになるから。とかベッドは必要ない。もう少し体力がつけば、肘でつっぱって、なんとか起き上がれるようになる。というふうに、まだできると信じ込んでいるところがとても危ないです。
いつ転倒するかもしれないくらいに弱っているのに、自分の体への認識が疎くなっているのですね。自分の体への気づきを促しながら、どんな動き方をこれからしていくか、しっかりと話し合って、決めておかないといけません。
今までとは違って、できなくなっているから、生活様式や行動様式を変えて、体が疲れないようにしなければいけないということを納得するまで、ずいぶんと時間がかかりました。「分かった!」と言いますが、分かってはいないので、また明日同じことを伝えます。
水分不足と認知症の関係
専門書にもありますが、一日に必要な水分量が満たされなかったら、特に高齢者の場合は、いろいろな部位に問題が発生するようです。特には脳機能に影響が出ます。認知症の患者さんに、水分をしっかり補給してもらうとどうなったかという研究があるのですが、みなさん、しっかりと水分を補給することによって、認知機能が僅かではありますが、向上したそうです。
実母はトイレの関係で、ここ数日我慢していたようですが、積極的に水分補給が進むように、一工夫が必要だなと思いました。病院では、小サイズのジュースが頻繁に出ていましたが、自宅療養に切り替えた分、不足気味になっていたのだと思います。反省すべき点です。